映画 モーターサイクル・ダイアリーズ

その革命家は、医者を目指していた。

その革命家は、風貌に似合わず喘息もちであった。

その革命家は、社会の底辺で暮らす人々を救おうと思った。

その革命家は、アルゼンチン人なのにキューバ革命を戦った。

その革命家は、革命家として一生をまっとうした。

その革命家は、チェ・ゲバラといった。

彼のことを知らなくても、その革命家として、いや歴史上の人物として

他の追随を許さない美しい風貌は目に焼きついているはずだ。

いまだに書店へいけば写真集や自伝が陳列され、

街では共産主義国でもない日本で顔入りの赤いTシャツを着る若者がいる。

埼玉スタジアム2002では浦和レッズの応援で、

彼の顔がビッグサイズの旗になってふられている。

共産主義革命の中で、

思想だけで洗脳されず、言論だけで凝り固まらず、

私利私欲だけで動ごかない、壮大なるロマンチストだと思える人。

現代史の教科書の中で、

とりたてて大きな紙面をさかれない革命家なのに

彼は圧倒的な存在感をもち21世紀の今も僕らの心に生き続ける。

そんな彼が、まだ革命家になる前、医学生時代に南米大陸をバイクで旅した

記録を映画化したのが「モーターサイクル・ダイアリーズ」だ。

彼のイメージしか知らない僕は、あまりにも彼の生い立ちとのギャプに

少々面食らった。キューバ人ではなくアルゼンチン人。

ゲリラの卵ではなく医者の卵。

頑強な肉体の持ち主ではなく喘息持ちの青白い青年。

ただひとつ予想通りだったのは、社会の底辺で生きる人々を救おうとする心。

普通の人間なら、いやらしい偽善者にみえるのだが、

彼はその救おうとする心が壮大なるロマンにみえてしまう。

まだ学生のころ、なんの権力もなく、なんの金もないく、

無駄な若さだけがあり余っていたいた頃、

四畳半の友人の部屋で語ったあの気持ちを思い出す。

「このままの日本ではいけない。もっと、海外の人を受け入れなければ、

国際社会の一員とはいえない」

「いまここで酒を飲んでいることさえ浪費だ。みんなで金をためて

食べることさえままならない発展途上国の人々に物資をおくろう」

「いやそのレベルでは甘い。海外青年協力隊に参加して

苦しんでいる人々に技術を教えてあげよう」

「個人で動いても仕方ない。政治家になってこの国を動かす。

世界一のODA国家にしてみせる」

狭い空間で延々と議論した。

しかし、次の日が来ると、あたりまえのように腹が減り、

安い定食屋で日替わりの大盛りを頼み、合コンの話でもりあがるのだった。

この映画は、チェ・ゲバラが旅をするうちに、社会のひずみ、貧富の差、

病気をもつ者への差別に心を痛め、自分の中に内包する正義感、

理想社会実現への夢が芽生えはじめたところまでを描いている。

僕らとレベルが違うかもしれないが、

学生時代に誰しも持っていた純真な気持ちを思い出させてくれる作品だ。

ぜひ、若き日の純真を思い出したい方におすすめします。